エッセイ

神さまがくれた時間-7

7.The Wounded Healer Can Heal

 

「傷ついた人だからこそ、誰かを癒すことができる」そんな意味のタイトルです。これはスウェーデンのピアニスト・作曲・編曲家のLars Jansson(ラーシュ・ヤンソン)の作品です。ここでは彼との出会いをお話ししようかと思います。

亡くなったT-Squareのキーボーディスト和泉宏隆氏とは、不思議なご縁がありました。私がまだ20代のころ、赤坂の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」というお店で演奏していたことがあります。ここは豪華なメンバーが毎晩出演していました。そのチェンジで私は弾き語りをしていました。そして夜中にもピアニストが演奏していて、当時まだ学生だった和泉さんもそのひとりでした。演奏できる仕事を探しているというので、私も出演させていただいていた、赤坂ポポという店を紹介しました。オーナーは和泉さんを気に入って、すぐにピアニストとして仕事をするようになりました。

私は結婚して店を辞めましたが、和泉さんはかなり長いご縁でオーナーのサチさんといい関係を築きました。和泉さんはSquareでTV出演もするようになり、しばらくポポから遠ざかっていたころ、私もピアノの仕事を辞めて、コンピューターのユーザーサポートの仕事をしていました。よくぞ、わたしがそんな仕事ができたものだと、今さらながらに思うんですが、とにかくわからないことがあったら、達人に聞くのが一番だと思って、19歳ながらもMr. Windowsと呼ばれる男性と仲良くなりました。彼はベースをやっていて、T-Squareの大ファンだと言います。一緒にコンサート行きませんかというので、そのカタログを見たら、和泉宏隆という人がキーボードをしている。すっかり彼のことさえ忘れていた私は、「もしかしたらこの人、私知ってる」といって、昔の写真を引っ張り出して、楽屋の和泉さんに伝言をしました。すると翌日、本人から電話があり「その節はたいへんお世話になりました。日比谷野音でのコンサートはご招待しますので、よろしければ楽屋にいらしてください」

そこから彼との出会いが再開しました。そのうちに彼のシークレットグループレッスンの一員として、彼に指導を仰ぐことになりました。レッスンはご実家で行われて、レッスン後半には、和泉さんのお気に入りの音楽を聞かせてくれました。パット・メセニーとかいろいろでしたが、ある日、「この人は僕が一番尊敬するピアニストです」と言って、聞かせてくれたのがラーシュ・ヤンソンです。その繊細で透き通るようなピアノの音にすぐに恋をしちゃった私は彼のライブに行きたいと思いました。まもなく来日するが、そのベーシストは日本人の森泰人だと言います。「あ、私、森さん知ってる」実は彼がまだスウェーデンに行く前に、元ダンナと一緒に飲んだことがあります。森さんは高柳昌行氏とも演奏していて、元ダンナは高柳氏の生徒だったんです。その関係でご縁がありました。

さて、和泉さんがお膳立てをしたラーシュ・ヤンソンのソロコンサートは夢のような音に包まれました。コンサートが終わってから森さんから打ち上げやるのでいらっしゃいませんかとお誘いがありました。掘りごたつの居酒屋で20人以上のファンたちが集まったのですが、みんなラーシュの隣の席は遠慮してしまう。そこで、私はちゃっかり彼の横に座り、しゃべれもしない英語でお話しをしました。そんな私を気に入ってくれたのか、その後、彼が持っていなかったホームページを、私のホームページの中に作って、そのやり取りをしているうちに、友人になりました。彼が来日すると必ず逢いに行きました。楽屋にも入れてくれて、時には楽器車に一緒に乗せてくれました。他のメンバーにも気さくに受け入れてくれました。そして毎回、打ち上げにも参加させてもらいました。「みどりは日本での最初のファンだから」といって、ずっと大切にしてくれました。

このニューヨークでのレコーディングの時も、ラーシュからメールがあり、「みどりは何をレコーディングするの」というので、ラーシュの”The Wounded Healer Can Heal”と”Giving Recieving”と言うと、ちょうど彼もレコーディング中で、同じ曲を収録してくれました。完成した後聞いてみると、ラーシュのアルバム”Worship Of Self”の2曲と、私の2曲はまるきり違うアレンジでした。でもそれが良かったのでしょうね。ラーシュは私のアルバムを聞いて、”Great!”と喜んでくれました。

今になってみると、ガン患者として傷ついているのかもしれない私ですが、それでも人を癒すことはできると信じています。たったひとりの笑顔が私の力にもなるし、私も笑顔で接することができるよう、日々努力を重ねています。そんな想いを込めてこの曲をソロピアノで弾きました。

3テイクで毎回テンポはどんどん遅くなりました。「どのテイクがいい?」ってディレクターの百々さんやエンジニアのジムにも聞きましたが、それぞれのテイクを録音している時に”Another Beauty!”(おお、このテイクもいいね)と言ってくれただけです。結局、自分で選んだのは最後の一番遅いテンポのソロでした。

「このアルバムでどの曲がいちばん好きですか?」と聞いたとき、この曲を選んでくれる人がいます。尊敬するジャズピアニストの国府弘子さんもこの曲を選んでくれました。ソロを選んでくれて、感激でした。

※The Wounded Healer Can Healの試聴はこちらから。

https://music.apple.com/jp/album/the-wounded-healer-can-heal/301376834?i=30176842
※アルバム購入はこちらから。https://www.amazon.co.jp/dp/B001MSU7WK/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_T7CJ23MRMXXB42W4M7RJ
※Lars Jansson ”Worship Of Self”
https://www.hmv.co.jp/artist_Lars-Jansson_000000000065550/item_Worship-Of-Self_2734615

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