エッセイ

神さまにはプランがある~続編-14

14. マスタリングという作業

 ミキシングはレコーディングしたデータをある程度、バランスなどを整える作業だ。これはレコーディングが終了した当日、スタジオオーナーのJim Clouseに3時間程度でまとめあげたくれた。このディスクを今度はマスタリングという作業をしてもらう、アバタースタジオに個人のオフィスを持つ内藤克彦さんに持っていった。

 

 内藤さんは、以前に書いたキョウコ・ベイカーさんにご紹介いただいた。彼は高校の時にレコードエンジニアになりたくて、単身渡米し、David Bakerさんに弟子入りをしたそうだ。そしてアバタースタジオで個人のオフィスを持つという、トップクラスのエンジニアになった。

 

 ところで、レコーディングの中でこのエンジニアという仕事は、私はディレクターと同じくらいに大きな役割を担っていると思っている。そして誰よりも怖い耳を持っているのが、エンジニアだ。ミュージシャンはどうしても自分の音を中心に聞く。しかしエンジニアは全体の音をくまなく聞くことができる。多くのアルバムでエンジニアの名前は小さく印字されるが、私はミュージシャンと同じ扱いとして、JIm ClouseとKatuhiko Naitoを写真入りで紹介させてもらった。滅多に写真に載ることのない彼らには面くらったかもしれない。しかし、私にとっては大切なミュージシャンのひとりだ。

 この時も百々さんは付き合ってくれて、内藤さんの作業をふたりで見せてもらうことになった。ここには2種類のスピーカーがあった。「スピーカーによって聞こえ方がぜんぜん違うのでね」
 内藤さんは寡黙でどんどんと手が動いていく。「ピアノはどっちにある方がいいですか?高い方の音は右の方がいいですか?」などと聞かれて、後は静かに、でも確実に仕事を進めていく。彼はなるべく音をいじらない。しかし怖いほどに音をキャッチする。百々さんとふたりでその耳の正確さに唖然とする。1曲を1時間でも2時間でも聞きとおす。
「ずっと聞いてて疲れる音ってあるんだけど、これは疲れないね。いい作品じゃないですか。」と言ってくれた時、誰よりもうれしい言葉だった。

 1日で5曲に12時間かかって、今日はここまで。百々さんも最初から最後までずっと付き合ってくれた。マスタリングってレコーディングより長い時間かかるものなのだ。

 結局マスタリングには3日間かかった。そしてミキシングと聞き比べると、サウンドがぜんぜん違う。もやがかかっていたものがクリアに音が透き通って、さらに疲れない音になった。

 さて、これを日本に帰ったらCDの形にしなければならない。ジャケットのこともある。
しかし、まずはこれで、レコーディングの目的は果たした。残りの滞在期限まで、ニューヨークを満喫しよう。

 

 1週間後ほどにレコーディングメンバー全員をランチへご招待した。Quincyだけは世界ツアーに出ると言うことで出席が叶わなかったが、ほかの全員が集まってくれた。マミさんにも来てもらって、通訳をお願いし、お礼のことばを述べた。みんなから本当にいいレコーディングだったと言ってもらって、何よりうれしかった。そしてミュージシャン同士もお互いコンタクトをとれたようだった。

 このアルバム作りにはJAMSNETも関わっている。私のニューヨーク滞在をサポートしてくれて、さらに内藤さんを紹介してくれた。そこで、アルバムの売上からJAMSNETに寄付をすることにした。もちろん実はアルバムが全部売れたとしても、滞在費からレコーディング費用など、ほとんど手元に利益が残るほどではない。でも私にとっては、それ以上にJAMSNETに出会えたことは、大きな出来事だった。そして後に、JAMSNET東京という日本でのJAMSNETを設立するお手伝いをすることとなる。
 

 ※当時のブログをご覧になれます。
https://blog.goo.ne.jp/midopi_2005/e/4d0a0c3275e47572e4f87b735b4f029a

神さまにはプランがある~続編-13前のページ

神さまにはプランがある~続編-15次のページ

PAGE TOP