エッセイ

わかれ道は突然やってくる-6

6.いざという時のために準備する。

癌が見つかってから死について考えることがある。

実は32歳の頃に、神経内科の診断で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の疑いがあるという診断を受けたことがある。当時はまだあまり知られていない病名だったので、家庭の医学という本で調べたところ、かなりの衝撃を受ける内容だった。

まだ結婚をしていて仲の良い夫婦だったから、何より主人は自分のことのように動揺もして、心配もしてくれた。そして私の身体が動かなくなっていくことを案じて、「俺はお前の足になる、手になる、目になる」と言ってくれていた。私も「私が死んだら、小さくなって胸の中にいるから、誰かと恋をしてね。私も一緒に恋をするから。」なんてことも言っていた。その後数年で離婚するとは、考えてもいなかった。
このあたりは拙著「神様にはプランがある」に詳しく書いている。

それから20年、私は生と死に向き合ってきたように思う。それが「神様のプラン」だったのかもしれない。この著書を出版するまで再検査について実は怖くてできなかったし、そのきっかけもなかった。しかし、本を出す以上、本当に私はALSなのかどうかを確認する責任がある。そこで、編集もほとんど終わっている時点で、編集者に再検査の旨を相談したところ、了承してくれた。当時医師として相談できる人はほとんどいなかったが、知り合いを通じて、私の現状を伝えると、再検査を勧めてくださった。そして検査入院の結果、運動ニューロン疾患には変わりはないが、最悪のALSではないという診断が出た。
この時から私は自分の人生を取り戻すことができるように感じた。

今回はこの経験も生きているかと思う。今はひとり身なのでその点では気が楽だ。家族がいないだけ、自分のことは自分で判断できる。そして友人に恵まれていることは何より幸運なことだ。医療ネットワークのボランティアとして、活動に加わっていたことで知識を得られたことも、大きな経験になった。

さて、そうは言いながらも、今回のがん告知についてはいろいろと準備しなければならないことがあった。いざという時のために。

まずは医療費が高額になりそうな場合は、「限度額認定証」を取得しておくと良い。これは病院でも勧められるが、所得に応じて窓口で限度額まで支払えば良いようになる。

生命保険を確認しよう。私はがん保険と医療保険に入っていたけれど、どちらにも電話で問い合わせすると、丁寧にどのように申請すれば良いかなど、丁寧に教えてくれる。

入院して病気が悪化した時にできなくなることが出てくるので、気になっていることは事前にやっておきたいと思った。もちろん、ちょっとした事務的なことや、人間関係のこと、それぞれあるが、いざというときを考えると、やっておきたいことが、検体の登録と遺言書の公正文書化だった。

献体とは、医学・歯学の大学における解剖学の教育・研究に役立たせるため、自分の遺体を無条件・無報酬で提供することをいう。32歳の時にも希望したが、父にはサインをもらえなかったことは以前にも書いた。今回は資料を郵送してもらい、自分で大学病院を選び、申請書を郵送した。遺体は大学病院に引き取られ、1年以上解剖の準備のための保存をし、その後教育、研究のための解剖を時間をかけて行う。遺骨は焼却されて骨壷が遺族に手渡される。

葬儀も位牌も墓もいらないので、そのことも遺言書には書いた。無になるのが人間の常と、かつてから思う。

遺言書は以前から書いて、財布に忍び込ませてある。しかし実行能力がないので、公正文書しておいた方が良いというアドバイスをもらっていた。ちょうど、一時支援金の時に、父の時にお世話になった司法書士さんに事前確認の件で相談した折に、そのことを話すと力になってくれるというので、その後、何回も内容を相談しながら、遺言書を作成し、公証役場で正式に文書化することができた。

そして何より、周りの人への感謝を伝えたい。悩んでいる時に相談に乗ってくれた友人たち、病気だとわかってからも変わらず、いやそれ以上に手を差し伸べてくれる人たち。
このブログを通じて、状況を知らせて、久しぶりに連絡を取り合ってくれる人たち。

いざという時が、いつ来るかはわからない。だからこそ、今を生きたいと思う。

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