エッセイ

恋人に話すように歌いなさい。

このあたりのくだりは、以前違うブログで書いたことがありますが、続編のリクエストが多いので、再度記憶をたどりながら、綴ります。

ベーシスト鈴木勲さんに紹介されて、青山のライブハウス”ロブロイ”に預けられた私は、そのままピアニストの中富雅之さんに託されました。
中富さんは父親が名俳優・大友柳太郎ということもあり、とてもハンサムでピアニストとしての知名度もある方でした。ピアノを弾く姿にも色気がありました。

中富さんは精いっぱい私を育てようとしてくれました。いろいろなライブハウスに連れて行かれ、レコードでしか聞いたことのないようなミュージシャンたちに紹介され、時には彼らをバックに歌わせてもらいました。ロブロイでは金曜日の夜に中富トリオのライブで歌いましたが、それは素晴らしいミュージシャンとの共演でした。

彼の友人でもあり、尊敬するドラマーでもあるDonald Baileyとの共演もありました。本番が終わってカウンターで彼が中富さんを通して私にアドバイスしてくれたことがあります。
「恋人に話すように歌いなさい」

その言葉が今でも耳に焼き付いています。たくさんの教えで頭のいっぱいになった私に”くぎ”を刺すような言葉でした。そのころは歌うことが何も怖くなかった。でもそのあたりから、私はこれで良いのだろうか?という疑心暗鬼がむくむくと雲のように立ち込めて、いつしか歌うことに恐怖心を持つようになりました。

いつか恋人に話すように歌いたい、そんな想いでそれからの40年を過ごしてきました。これだけは諦めたくないと思う目標です。

PAGE TOP